まとめ
新機種intuos4、旧機種intuos3、他、の筆圧読み取り性能を測定比較した。intuos4の高感度の筆圧読み取り性能が明らかになったが、それとは別に、intuos3ではペンの個体差が非常に大きいという驚きの結果が得られた。モノによってはintuos4に肉薄する感度だったり、FAVO並に低感度だったりする。低感度なペン(いわゆるハズレペン)を所持していた人は、intuos4にすると劇的な改善が感じられるだろう。
イントロ
デジタルで絵を描いている人はみんな持っている道具、タブレット。それがこの春、新しいチップセンサーを搭載した新機種が発表された。Intuos4、前代のintuso3から5年近く経っての新製品だ。
さまざまな機能強化がWacomからの発表されているのだけど、描画の基本機能として改善されたのは以下の点。
・1gという軽い筆圧でも描けること (従来は10g?)
・筆圧レベルが2048段階に細かく (従来は1024段階)
・筆圧感知が高速化?
なんだかスゴそう。
私は筆圧が軽く、ストロークがとても早くて、だから柔らかくふわふわした線が描けるんだと思うけど、これがデジタルだとなかなか上手く描けなかったりするから、興味津々。
しかしこの改善点、資料を読んでもなんだかよく分からない。新旧の比較の情報が決定的に欠けているのだ。
■画像1:wacomの資料pdfより。筆圧感度曲線
筆圧性能の新旧比較が載っているものの、グラフの横軸が不明で比較ができない。横軸に書かれてある1gというのがどこを指しているんだ?素直に読み取ると、従来のチップセンサーのON荷重が1gであるかのように見える。どういうこっちゃ?
こうなると、自分で測って確かめてみたくなる。
しかし、特定の筆圧をかけた状態でタブレットペンを使うってのが難しい。どうやればいいんだ?・・・と、ぼんやり思っていたら、ふとひらめいた。「ばねばかり」を利用すれば良いのだ。
■画像2:計測装置概要と資材(英語で書くとマテリアル&メソド。少女マテリアルが置いてあるのは偶然)
ペンに重り(ねんど)をつけて、上からバネばかりで吊す。ばねばかりごと下ろしていくと、タブレットにペン先が触れて、タブレットに荷重がかかる。かかった荷重の分だけ、バネばかりに表示される重さは小さくなる。(なぜこれで測れるのかは詳細は省く。考えてくれ)
測定対象:
・intuos4 ※いつのまにか家族が買っていたので、お出かけ中にこっそり測った
・intuos3 ※630サイズ。
・Cintiq21 ※液晶タブレット。intuos3と同一性能というふれこみ。
・X61t ※タブレットPC。タブレット性能はあきらかに悪い印象。
ペンの条件
・ドライバーでの設定はデフォルト、ペン先は標準の芯を利用。
ペンの種類
intuos3はcintiqとペンが互換だというのもあって、私は複数ペンを所有している。なんとその数6本(!!!)。
・intuos3 630に付いてきたモノ
・intuos3 930に付いてきたモノ
・上記のが壊れた気がして買い足したモノ
・クラシックペン(短くて軽い。昔のintuos1に形状が似ているからクラシックと呼ぶらしい)
・cintiq12に付いてきたモノ (色が黒い)
・cintiq21に付いてきたモノ
なんというブルジョア。自分でもどうかと思うけど、この比較が結果として驚きの事実を明らかにした。
計測方法
タブレットが出力した筆圧値を数値化する必要があるのだけど、普通のお絵かきソフトでは数値として表示してはくれない。
自分でWinTab.dllを使ったプログラムを作った方が早いかなあとネットを調べていたら、よさそうなサンプルプログラムが見つかった。
なので勝手に利用させて頂きました。ありがとうございます。
http://giga.hp.infoseek.co.jp/Diary/wintab2.html
表示される数値と、wacomのコントロールパネルに表示されるグラフ表示が正しく対応しているっぽいので、よしとする。
計測手続きは、筆圧装置で2g単位で荷重を変化させて、そのときの読み取り筆圧を記録する、という方法。
測定は1、2回。適当に振動を与えて、安定した点を計測値とした。
測定結果
図は横軸が筆圧荷重、縦軸がパソコンに読み取られた筆圧。
上から順番に、intuos4(赤)、intuous3が6種類(青)、x61t(緑)と並んでいる。
●まず注目すべきは最小荷重。
左下の部分で曲線がゼロに落ち込んでいるところが、ON認識する最小荷重。これより弱い筆圧で描画するとパソコンには全く認識されない。
intuos4の場合最小荷重は1gであった。確かにスペック通り!すばらしい!
intuos3の場合、驚く結果が得られた。ペンの種類によって個体差が激しくあるのだ!
6本のペンのなかで、もっとも感度が高いのが630に付属してたペン。最小荷重は4g程度。
順に性能が落ちていき、最悪なのがCintiq21付属のペン。なんと最小荷重は12g。
さらにX61tは低感度だ。最小荷重は15gだった。
●筆圧特性
筆圧を上げていくと、順次読み取り値が上がっていく。このカープの特徴について。
intuos4はさすがに綺麗なカーブ。直線ではなくカーブ状なのは合理的な特性で、1gと2gの差と、と50gと51gの差は、どちらも同じ1gだけど、前者の方がヒトは変化に敏感だからだ。差に敏感なので細かく読み取ってる。
intuos3は個体差があり、感度が良いモノから悪いモノまで順番に並んでいる。さらに筆圧の低いところでチョビっと裾野が伸びるような形状をしている。これが良いことなのか悪いことなのかは分からない。
さらに、全体的にカーブがガタガタしてる(計測誤差の可能性もあるけど)。測定してたときの内観だけど、intuos4は適当に振動を与えてもすぐに一定の筆圧値に収まるのに対して、intuos3の方は、振動を与えると筆圧値がすぐに変動して、なかなか収束しなかった。このへんも新機能の性能なのだろうか。
x61tはまぁまぁ。最小荷重から予想されるとおり感度が悪い。計測の不安定さは一番悪かった。
考察
intuos4の筆圧特性の向上はすばらしい。文句なしだ。
最小荷重が小さいということは、力を抜いて描けるということで疲労軽減になるし、なにより、柔らかいタッチまで再現することができる。
また筆圧の読み取りにノイズが乗りにくいというのは、ペンの入りや抜き、同じ太さで何本も線を引きたいときなどに、安定した太さや濃さの線が描けることになるだろう。
intuos3はペンに個体差がありすぎる。
ネットを調べてみたけれど、個体差についての情報は得られなかった。さすがに何本もペンを持っている人はいないからだろう。
wacom発表の「従来の最小荷重は10g」というふれこみは、間違いではないけれど、正確性には欠けている。計測したペンのうち、半分以上は10g以下の最小荷重で、平均値は8gだ。個体差により4g~12gの差がある。
運悪く感度の悪いペンを所持していた人は、intuos4に買い換えると劇的な改善が感じられるだろう。
しかし感度の良いペンを所持していた人にとっては、買い換えてもあまり変化は感じられないかもしれない。
intuos3のペンに個体差があるということは、タブレットを買い換えなくても、ペンさえ買い換えれば運良く感度の良いペンが手には入る可能性はある。しかし、ペンだけを単体で買う場合6000円となかなかの高い値段だし、買ったとしても運良く良いペンに当たるどうかはわからない。
それどころか、これは一つの可能性なのだけど、、新しいペンほど感度が悪い傾向がある。
今まで購入してきた順番で並べると、
630、930、買い足し、cintiq12、クラシックペン、cintiq21
感度の順番で言うと
1,2,4,5,3,6
なのだ。時系列と感度特性に負の相関がある。最近手に入れたモノのは感度が悪くなってる。
X61tの感度が悪いのは仕方ないところだろう。情報によると、タブレット性能はintuos1以前に発売されていたartpad II相当だそうで、廉価版タブレットであるBAMBOOやFAVOよりも性能が悪いと予想される。
コントロール実験1:コンパネでの筆圧感度調整は最小感度には影響しない
筆圧性能に問題がある!と言うと、コンパネで感度設定したら?と言いたくなる人もいるだろう。
設定を変えると感度が変わったように思うけれど実は、最小筆圧は変わらないのだ。
同じペンを使ってコンパネの筆圧感度を4段階に変化させて測定。
感度を「柔らかい」に変化させていくと、確かに読み取り値は上昇して、感度が上がったように見える。
しかし、注目すべきは最小感度だ。約4gのところで変化していない。これはタブレット(ペン)のデジタイザが読み取った値を、パソコン側で数値に掛け算をしているにすぎないからだ。
コントロール実験2:板タブ(intuos3)と液タブ(Cintiq21)での結果はほぼ同じ
同じペンを使って、板タブと液タブで性能が異なるかどうか検証した。筆圧のデジタイザ 筆圧センサはタブレット側ではなく、ペン側にある。なので個体差は少ないだろうと予想されるが・・・(09/6/16訂正。ペンとタブレットはアナログ通信です)
結論:あまり差がない
板タブと液タブでは差があるけれど、それよりもペンの個体差の方が影響が大きい。
感想とおまけ
とにかくintuos3のペンの個体差に驚いた。
intuos4が出たとは言え、私がメインで使っているのは液晶タブレット(Cntiq21)だ。intuos4ベースの液晶タブレットはまだ発売されていないし、intuos3互換のペンが重大な問題を持つのだ。
この計測を思い付いたのは、もちろんintuos4が発売されたからなのだけど、実はもう一つ理由があった。
最近saiを購入して、色も綺麗に塗りたいしなあと、試行錯誤を始めたのだけど、妙に筆圧感度が悪く感じて、、、というのが実はきっかけ。実はsaiは、コミスタやフォトショップよりも最小筆圧が高めに設定されているらしいのだ。だから、ちょっと筆圧を高めにかけてやらないと描画できないのだ。saiを使うのなら、感度の良いペンを使うに限るかも、だな。
ただし、感度が悪いペン、といっても別に不良品ではない。データを見せたところでwacomに交換してもらえるとも思えない。多くのintuos/cintiqユーザーは「そんなもんだ」と受け入れて絵を描いているんだろう。実際、intuosより明らかに感度の悪いタブレット、BambooやFavoを使って、超絶な絵を描いてしまう作家もいっぱいいるわけだし。
これまで愛用してきたのは、その軽さがウリの、クラシックペンだったのだけど、、、この測定結果を見ると感度の良いペンを使いたくなってしまうのが人情だよねえ。
ペンに内蔵されているデジタイザの感度を、ハードウェア的に調整できないものなんだろうかねえ?誰か、壊れたペンを解体してみた人とかいないのかしら?
備考:
バネばかりSANKO製の200g計測(目盛り2g)のもの。下町の町工場の製造品っぽい。
http://www.sanko-s.jp/modules/speed_syouhin2/index.php?title=%BC%EA%A4%D0%A4%AB%A4%EA&cat=1
精度が良くて驚いた。
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・Wacom ZP-300E Intuos3 クラシックペン
コブヘー URL 2009.06.15-09:08 Edit
また面白いことをやってますなー(^^)
やはり測定から入るところがこーわ先生らしくて。
ほかにも資料を探すとか分解をするとかのアプローチもあるのに、普段は設計図なんかなくて分解もできないデバイスを扱っているだけのことはありますな(笑)
製品として発売されているものでこの個体差は驚きですね…ソフトで悪いほうにそろえたりしないで最小感度をデバイスの限界近くの精度まで残してくれているんでしょうかね。
4の新センサーで段階も増えてるようですから、個体差はますます大きくなっているかも?
ペンタブレットの筆圧感知ってコンデンサかなにかを使った圧力センサーだと思うんですが、電気的なセンサーだと温度の影響を受けることがあるので測定時の気温も気になるかも。
あと、ユーザーとしてはペンの傾きや持つ位置による感覚の違いも気になりますね。
私は鉛筆をほとんど垂直に立てて持ちますが、ほとんど寝かせて描く人もいるみたいですし。