2004/12/22 (水)

同人誌の値段の実際
・イントロ

自分の作った同人誌に、いくら値段を付ければよいのだろうか。
サークル参加したことのある人なら、誰もが一度は悩む問題だ。


ほとんどの場合、内容とは関係なくページ数と装丁で値段を決めるようである。

一般的な相場といわれるのが次の式。
 B5…ページ数×10円
 A5…B5の0.8倍
  ※表紙フルカラーの場合はプラス100円
  ※一般創作などのとても相場が安いジャンルもある。

おそらく、白黒コピーが1枚10円ということから、
だれもが理解しやすく、相場として受け入れられているのであろう。



また、発行部数の多いサークルでは、販売の手間を考えて500円や1000円といった、
キリの良い価格を好む傾向がある、といわれている。この場合、相場式から外れることになる。


「一般的に言われている」というこの相場は、実際どのくらい当てはまっているのだろうか。
また、この相場式から外れる安い本、高い本は、どのくらい分布しているのだろうか。


そこで、同人誌通販大手サイトに表示されている通販価格から、
同人誌のイベント売価を推定して、ページ数と売価の関係を調べてみた。




・データサンプル方法

データは、某同人誌通販サイトより拾い上げた。

今回はジャンルを特定し、オリジナル、鋼錬、fateの3つから情報を抽出した。
これら三つは、委託件数が多いトップ3である。

オリジナルは流行り廃りのない安定した価格と考えられる。
(男女比 93%: 7% = 381:30冊)
鋼は流行ジャンルであり女性向け
(男女比 13%:87% = 57:372冊)
fateは流行ジャンルであり、 男性向けという傾向がある。
(男女比 99%: 1% = 356:3冊)

今回の報告では、ジャンル、男性・女性向け、18禁フラグは考慮に入れず、
すべてのデータをひとつにまとめて解析を行う。

通販サイトにはページ数・値段以外にも、
ジャンル、男女向け、本のサイズ、18禁フラグなどの情報がある。
これらの情報は今後の解析に用いていく予定である。



通販サイトに表示されている価格には消費税(5%)手数料(30%)が含まれている。
これらを除いた金額を、サークルの売価と考え、データとする。

また、サイトに表示されているページ数は、表紙込みのようである。

本の装丁は、表紙がカラーかモノクロか、前ページフルカラー本か、CD-rom付属など
いろいろなものが混在しているが、今回は考慮に入れず、ひとまとめにする。


データは80ページ以下、1100円以下のものだけを採用した。
それ以上の本は数が少ないので、結果を見やすくするためである。

また、1100円以上の本には付録つきが多く見られたため、結果に含めないほうがよいと判断した。

結果と考察
データ数は合計1199冊である。

図に、同人誌のページ数と値段の関係を示す。

まず右上の大きな散布図は、何ページで何円の本が何冊あるのかを示している。
プロットの青い丸の直径が本の冊数を示す。図中の右下にシンボルの凡例を示す。

(細かい話: 実際は380円だとか、中途半端な値段の本も多くあるが
  50円単位で切り上げ・切り下げを行ってヒストグラムとしてまとめた)


当然のように、ページ数が多いほど値段が高い関係がある。

図中のベージュ色の太線が、一般的な相場であるページ10円+100円という関係を表している。
ベージュ色の太線の上端が+100円の線である。

16p〜38pの本に相場式よりも高い本が固まって存在していることがわかる。



散布図ではよくわからないので、ページ数ごとの本の平均価格を求めることにする。
図中の赤いダイヤマークが平均価格である。
(エラーバーはstandard error of mean)

平均価格は、おどろくほどに「ページ10円+100円」の線に乗っていることがわかる。
平均的に見れば、多くのサークルが相場式に則って価格を決定していることになる。



図の左に示したバーグラフは、値段ごとの本の冊数を示したヒストグラムである。
約400円を中心とした分布をしている。

450円のバーが異常に少ないのは、サークルが半端な値段を嫌った結果だと考えられる。
その分、400円、500円と値段をつける

同様の傾向は650円、250円でも見られるが、350円では見られない。

350円というのは、通販サイトの手数料を含めると500円ピッタリとなる。
そのため、値段を調整したサークルが多いのだろう。
同様に700円(手数料込みで1000円)という本も多いようだ。



図の下に示したバーグラフは、ページ数ごとの本の冊数を示したヒストグラムである。
約28ページを中心とした分布をしている。
ページ数20,28,36,44,52と、バーひとつおきに冊数がわずかに多い。

これは、本文8の倍数+表紙4ページという、印刷に都合のよいページ数であるため
多くなったのだろう。






・考察

ページ単価をいくらにするとどんなものなのかを知りたい人は、
このグラフが参考になると思う。



データの問題点について一応コメントしておく。


委託を行ってるのは、ある程度の売り上げが見込めるサークルのみである。
(業者が売れないと判断した場合、取り扱ってもらえない)
そのため、印刷部数の少ない本はデータに含まれていない可能性が高い。

初めて本を出す人は「24ページ500円でもいいんだ!」なんて安易に思わないこと。


委託を行っているサークルには、売る気・儲ける気が満々かもしれない。
そのようなサークルは、イベント頒価がちょっと高いかもしれない。
もちろん、広くたくさんの人に読んでもらいたいということから、
委託を行っているサークルだって多くいる。
イベント全体での傾向よりも、多いかもしれない、という話。


委託業者は男性向け18禁作品に特化しているため、値段が高い可能性がある。





逆に、今回のデータの値段よりもイベントでの頒価の方が高い可能性もある。

委託業者は、卸し価格をイベントの売価より高くならないように要望している。

手数料を乗せた上で、値ごろ感を出したり、ピッタリ価格になるように
卸価格を調整(値引き)しているサークルも少なくないだろう。






年々、印刷料金が下がっているにもかかわらず、
相場の計算式は変わっていないようだ、とシドニャーさんによって指摘されている。
http://blog.goo.ne.jp/sydnya/e/9d6c9b4e6d68b2abdfaf3765e08b3d3a

印刷料金低下によって、以前ならオフセ本、フルカラー表紙本はコスト的に作ってられないよー、
という発行部数であっても気軽に作れるようになった。
そのような本の原価率は必ずしも年々下がっているとは限らない。

そして、その程度の発行部数である本が、イベントの多くを占めていると私は予想している。


余談だけど、
価格競争がないのは、ひょっとしたら、参加者の年齢が上がっているせいかもしれない。
参加者が学生から社会人となり、お金に余裕があるのかもしれない。
(とはいえ私は、学生のときのほうがいっぱい同人誌を買っていた)

また、ささやかな黒字で、よりたくさんの本が創り出されるのだったら、
そのぐらいかまわないよ、と個人的には思う。





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